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Last updated: 2003.08.13  

EPA の政策措置における成功の要因

Energy_Star

今回は,米国 EPA(環境保護庁)が,自主的取り組みという形で,いかに政策の目的を達成してきたか?を考えてみましょう.

みなさんは,おそらく PC を使う際に,ENERGY STAR® のロゴの付いたものを使っているのではないでしょうか? これは,EPA の省エネ基準に合格したという印です.いまでは世界規模のラベリング制度となっていますね. この制度自体は自主的なもので,強制力はありませんが,確実に 米国そして世界の省エネ型製品の普及に寄与してきました. いまでは,その対象は 38 の製品カテゴリーに及び,7 億 5 千万もの製品が販売されました.

1992 年にラベリングではじまった ENERGY STAR® は,いまでは,家庭部門の個々の機器効率だけを対象とするのではなく, システムとしての省エネ,建造物のベンチマーキングや格付け,そして エネルギー管理・戦略に関するパートナーシッププログラムとして,業務部門や産業部門への拡大を見せており (ENERGY STAR® ファミリーと言われています),当初見込みをかなり超えるパフォーマンスを挙げています (エネルギー省 DOE とも協調しています).

ここで留意したいのは,この強制的でないプログラムが,なぜ成功してきたか?という点です. その大きな要因は,EPA によるきめ細かいフォローアップがあったと言えるでしょう. Web サイト (http://www.energystar.gov/) によるフォローアップを含め, 絶え間ない改良,対象者への働きかけや広報,事後評価や見直しなどが行われてきています. 制度設計時の工夫も重要ですが,作りっぱなしでなく,きちんとした事後評価や改良・発展が重要であるということですね. キャパシティービルディングの要素がかなり大きいでしょう.

このようなアプローチは,ENERGY STAR® だけではなく,他の EPA プログラムにおいても見られます. たとえば,DOT (Department of Transportation) と共同で新しく始まった Commuter Choice Leadership Initiative は, 非政府プログラムの Commuter Choice Employers の参加者に技術情報などを提供するプログラムですが, これもかなりボトムアップ的なフォローアップに基づいて,着実に成果を上げてきています (http://www.commuterchoice.gov/).

察するに,EPA の人は,強力な政策官庁でなく,またクリントン政権時代もブッシュ政権になってからも, 自主的な枠内でしかプログラムをデザインできない,という制約の中で,最大の効果を挙げるにはどうすればいいか? を 自問自答し,知恵を出し,彼らなりのビジネスモデルを作り上げたのだと思われます. 自主的プログラムのもうひとつの大きな特徴である「すぐできる」というメリットを, 最大限生かしているということもできますね.

経済学的視点から見た場合,これはどういう意味を持つのでしょうか? もし市場が完全なら,負のコストのオプション(多くの省エネが,エネルギーコストの回収という形でこれに相当します)が 存在する場合,それは必ず実現化されます.しかしながら,現実には,そのような情報がよく知られているということはなく, また,エネルギー消費者が合理的な行動をとるとも限りません.この「市場の失敗」を取り除くということ, とくにボトムアップ的な努力や工夫によって(専門)知識の普及という点に焦点をあてることで, EPA のプログラムは成功してきていると言えるのではないでしょうか.

振り返って,日本に目を移してみましょう.わたしは,日本の省エネ法の エネルギー管理指定工場制とエネルギー管理士制度は,きわめて優秀なプログラムであると思っています. 工場の省エネルギー(エネルギーの合理的使用)を行うためには,かなりの専門知識を必要とします. 工場における省エネオプションを「見つけだし」 「実行する」専門家育成と,詳細な報告制度の確立, そして省エネセンターによる細かなフォローアップが,日本の産業部門が世界最高のエネルギー効率を達成している 重要な制度的インフラを提供していると思います.EPA と少し方法は異なりますが, ボトムアップ的な専門知識普及 すなわち キャパシティービルディングをベースにおいているという点では, 共通する点も多いのではないでしょうか.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2003年 6月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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