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Last updated: 2005.10.27 

EU排出権取引制度における割当方法を考える

さる2004年1月7日,欧州委員会は,EU排出権取引制度の各国における排出権(数値目標)割当方法に関して,ガイドラインを発表しました(COM(2003) 830 final).これは,2004年3月末までに各国が(各国独自案として)作成しなければならない国別割当計画の考え方として,EUで共通の指針となるものです.日本の将来の制度を考える上でも非常に興味深いので,今回,この特徴を簡単に見てみましょう.

割当計画策定においては,11のクライテリアが設定されています.そして,そのいくつはmandatoryなもの,それ以外はoptionalとなっています.そのなかでいくつか,興味を引く項目をみてみましょう.

ひとつは,京都目標との整合性です.2008年からの目標に「向かう」ことが求められているのですが, 目標のない2005?2008年のトレンドパスをどう引くか?という点と,その中の排出権取引制度でカバーされている部分の割合を どう考えるか?の二点があります.前者は日本の長期エネルギー需給見通しのような「政策目標」的な数字ではなく, 現実制の高いものを使わなければなりません.後者はたとえば伸びている運輸部門などのことも考える必要があるということです. 京都目標との整合性はmandatoryですが,その方法は各国にまかされています.ただ,きちんと説明できなければなりません.

次に,割当にあたってのクライテリアの中で,将来の排出削減ポテンシャルと過去努力とをどう考えるか?という点があります. EUのガイドラインでは,将来の可能性を非常に重視した形になっています.これからどれだけ減らせる余地があるか?という点ですね. 「余地」は,「コスト」の観点でとらえ(これは排出権取引制度のカバレージの内外の議論にも用いられます), 個々の設備(割当の単位)の経済的実行可能性は考慮しません.これにも,客観的な研究成果などに基づくことが求められます.

過去努力に関しましては,オプショナルです.基準年として早い段階を認める,ボーナス割当ラウンド設ける,ベンチマークを用いる, などというアイデアが載ってはいますが,問題はそれらが運用可能か?という点です. そのテクニカルな点を解決できなければ,過去努力が(あらわには)認められなくなるという可能性も高いのです (とくに時間的制約が大きいですから).

新規参入者に対する取り扱いも,なかなか興味を引きます.EU排出権取引制度では,新規参入者の取り扱いは, 設備拡張とおなじ取り扱いをすべし,となっています.すなわち,新規参入者に無償で割当を行う場合にも, 必要な全量を市場から購入しなければならないとする場合にも,同じ方法を設備拡張する場合にも用いなければならないということです. この方法は英国排出権取引制度デザイン時にも議論の俎上に上りましたが,結局採用されなかったものですね. なお,この取り扱いにおいて無償割当を採用する場合には,その財源(排出権源)をどうするか,考えておかなければなりません. 全体の枠は限られている訳ですから.

感慨深いのは,EUは,すでにこのようなきわめてポリティカルな色彩の濃い議論を,かなり具体的なものとして行ってきているということです. EU域内排出権取引制度は,京都議定書の存在の有無にかかわらず,実施することとなっています.この彼らの状況をどう理解するか? ガイドラインの具体的項目から仮想日本制度設計においてどのようなインプリケーションを得るか?は,ご自分で考えてみてください.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2004年2月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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