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Last updated: 2005.10.28 

CERはすぐ欧州で販売できるか

欧州委員会,欧州閣僚理事会,欧州議会と経て,いわゆるLinking Directiveが実施されることとなりました.これは,CER(やERU)を,EU ETS(EU排出権取引制度)で,EUA(EUアローワンス)と同価値のものとして,互換性をもたせるというものです.

細かな点はさておき,これはCDMを推進する立場から言えば,強力なリスク回避手段ができたことを表しているといえるでしょう.なお,京都議定書が発効しなかったら...という点は不透明な点として残されていますが,欧州議会のAlex de Roo議員は,それへの対応も進めていると語っています.

さて,それでは,日本の企業がたとえば2006年に獲得したCERを,すぐ欧州市場で販売することは可能でしょうか?問題はそう単純ではありません.

なお,ここで議論するのは,「現物」であるCERのアカウント間移転を伴うものの話です.先渡しやオプションというデリバティブ系の取引も排出権取引と分類されることもありますが,ここではあくまで,CERなどのアカウント間の移転を伴うものを考えます(デリバティブは「契約」ですので,一般にはどのようなものも可能です).

CERを保有するということは,どこかのAnnex I国のレジストリーにアカウントを持ち,そこに該当分のCERをたくわえるということです.これを外国の企業や自社の外国のアカウントに移転する場合,それは京都議定書上では第17条で規定されている排出権取引とみなされます.同じ会社内であっても,国境をまたげば,同じことですね.

ある国が(すなわちある国のレジストリーにアカウントを持つ主体が)排出権取引を行うためには,マラケシュアコードで規定されている「参加要件=Eligibility Criteria」を満たさなければなりません.これは,議定書の締約国であること,レジストリーの設置,インベントリーシステムの整備・運用,基準年排出量の確定などで,数値目標などの排出量のアカウンティングシステムがきちんと機能するためのインフラ整備を要求するものです(ある意味,当然と言える要件なのですが,ロシアやウクライナにとってこの遵守はけっして簡単ではありません).

これらの要件が満たされているかどうかの審査は,(まだつくられていない)遵守委員会が行います.遵守委員会はEnforcementブランチ(国際法の専門家で構成),Facilitativeブランチから成り,その下に一次審査を行うインベントリーの専門家がいるわけです.

各Annex I国は,この参加要件を2006年末までに満たす必要があり,残りの一年をかけて審査が行われることになっています.言い換えると,その審査が終了する2007年末まで,どの国も排出権取引を行うことはできないわけです.すなわち,みなさんがCERを獲得したとしても,2008年までは,欧州企業に販売することはできません(正確には移転することができないわけです.移転する契約を結ぶことは問題がありません).

一方で,一国のレジストリー内で,別のアカウントに移転することは,「国内」ですので,京都議定書における排出権取引には分類されません.したがって,それ以前から可能になります.

グレーなのは,EU 15か国間で(25か国ではありません)それが可能となるかどうか?です.EUはそれ自体で条約や議定書の締約国でもありますので,たとえば英国のアカウントからドイツのアカウントへの移転も,2008年を待たずに可能となる可能性も高いと想定されます(きちんとどこかで決議されたかどうかは,わたしは確認していませんが).

したがって,みなさんがもし,日本規制フレームワークの不透明性などから,欧州市場で(2008年以前から)CERを移転することを考えておきたい,ということでしたら,EUの国にアカウントを開設し(それが可能かどうかはその国の政策に依存します),そこでCERを運用するようにするということが必要となります.もっとも,そのときは,あくまでその欧州の国の企業となりますので,CDMプロジェクトの承認も,その国の承認が(も)必要となります.

レジストリーやアカウントの話は,銀行とその中に設けた口座と考えていただければわかりやすいかもしれませんね.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2004年6月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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