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Last updated: 2005.10.29 

京都議定書発効の持つ意味

2月16日の京都議定書発効を機会に,京都議定書の持つ意味を考えてみましょう.

まず,地球温暖化問題(=気候変動問題)の特徴を見直してみましょう.

タイムスケールと言う点では,少なくとも百年,場合によっては千年スケールで人類がかかわっていく問題であるという認識が必要です.これには,緩和(GHG排出削減)対策という面の難しさと,その影響の継続性という側面があります.

同時に,

などの特徴があり,効果的にこの問題に取り組んで行くことの大きな障害となっています.

そのような背景の下で,第2回世界気候会議,IPCCの設立など,いくつもの先駆的な取り組みのあと,1992年のリオの地球サミット(環境と開発に関する国連会議)に呼応する形で,気候変動枠組条約が採択されました.これは,すでに190カ国程度の批准を経て,今後においても温暖化問題への国際的取り組みのベースとなることはまちがいないでしょう.

気候変動枠組条約の中には,当時の交渉者が「仕組んだタネ」?条約の究極の目的に照らして条約のコミットメントは十分か?という点に関する審査をCOP 1に行うという規定?が蒔かれており,それが,COP 3において,京都議定書という具体的な形で結実しました.

その後,ハーグのCOP 6におけるルール策定の失敗(これはEU内の不協和音が主因),その後の米ブッシュ政権の成立と議定書不批准宣言を経て,EUの大いなる妥協に基づいてCOP 6.5のボンで政治的合意に成功,COP 7でルールブックたるマラケシュアコードの成立に至りました.昨年末のロシア批准を経て(これもEUのWTOとからめた政治交渉の影響が大きい),2月16日にいよいよ議定書発効,今年末には議定書の第1回締約国会合(COP/MOP 1)が開催されます.すでにCDMは動いており,EU排出権取引制度も始動,2008年の第一コミットメント期までもう3年をきっています.まさに,いま,新しく炭素制約下社会に向けての転換期にあると言えるでしょう.

地球温暖化問題の特徴と,現在に至る歴史的経緯を俯瞰すれば以上のようなものとなるでしょう.

さて,京都議定書ですが,この百年以上のスケールでつきあっていかなければならない,言い換えると,これから世界的に強化されていく地球温暖化問題対策における「第一歩」であることは自明ですね.

ということは,発展途上国のコミットメントが入っていないなど,この議定書が「完全でない」ために,京都議定書が守るに値しない… という議論は,まったく正当性を欠くことになります.温暖化問題に関する「責任」は,途上国より先進国が大きいのは明らかですから,「まず」先進国から… というベルリンマンデートは,とくにおかしな決定ではないわけです.

問題があるとすれば,発展途上国がいかなる形で新たなコミットメントを受け入れるか?という点に関する「タネ」がうまく機能していない… という点でしょうか.

発展途上国に関しては,京都議定書を改正する中で対応する方法と,他の枠組みを用意する方法があります.多様な国々をひとつの議定書の中にまとめあげることはかなりむつかしいため,(韓国などはともかく)後者を選択することがリアリティーは高いでしょう.わたし個人的には,気候変動枠組条約の改正という形で対応することが,ベストではないかと思っています.「やりたい」国から取り込んで行くという形にならざるをえないでしょうから,CDMで実際に「GHG削減はメリットがある」ことを実感として理解してもらい,「GHG排出権市場へのフルアクセス」などをインセンティブとするのでしょうね.所得水準に応じてコミットメントに差を付ける,国単位でなく地方やセクター単位という柔軟性を設ける,などの工夫が可能です.

また,CDM, JI, 排出権取引という京都メカニズムに関しては,いまではおそらくその存在を望ましくないものと思っている人はほとんどおらず,第1コミットメント期は言うに及ばず,第2コミットメント期以降に関しても,各国で盛んに用いられることになるでしょう.

一方で,目標の水準や決定方法に関しては,不満がある人も多いのも事実です.第2期の目標はこれから議論をはじめるわけですから,これからみんなで納得できる方法をさがせばいいわけです(ちなみに議定書で2005年から議論を始めることが求められているものは,第2期の「先進国目標」であり,発展途上国の参加問題ではありません.念のため).

さらに,米国の不参加問題に関しては,少なくともブッシェ政権はあと4年間は態度を変えるとは思えませんが,その後,もしクリントン政権のようなスタンスの政権が成立した場合,なにを彼らは望むでしょうか?それは京都交渉やマラケシュアコード交渉で明らかでしょう.排出権市場を活かせる制度設計とは?ということが,彼らの関心事であったわけですね.

京都議定書に不満がある人が,議定書のどこに問題があると思っているか?という点は,・途上国のコミットメントがない点,・(日本/先進国の)数値目標のあり方が不満,・米国が(現時点で)不参加な点,でしょう.これらの点は,上述の通り,今後の枠組みの変遷の中で対応されていくものです.したがって,このような理由で京都議定書を否定し,一から新しい枠組みをつくるということには,合理的な理由があるとは思われません.むしろ,第二期の「枠組み」および「先進国数値目標設定方法」に関して,議論を深めることが重要ですね.

また,京都議定書がなんらかの理由で,もし第1コミットメント期で終わってしまったとしましょう.その場合,おそらく数年のタイムラグはあるでしょうが,何らかの議定書が(気候変動枠組条約の下で)ふたたび策定されると想像されます.たとえ数値目標の形態や水準は異なろうとも,その中に,CDMや排出権取引のような(名前は異なったとしても)京都メカニズムが実質上生き残ることは間違いないでしょう.

京都議定書は,「市場メカニズム」を,GHG排出削減に用いることを可能としました.おそらく,市場の活用こそ,難問であるGHG排出削減に向けての最大の武器になると思われます.今後は,その武器を最大限に活かすために,どのような行動をとるべきか?という視点が必要ではないでしょうか.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2005年3月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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