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Last updated: 2005.10.29 

途上国はCERを売れるか?

以前にも議論したことがありましたが,non-Annex Iの国や企業は,自己所有のCER(の現物)を自由に売ることができるのでしょうか?

もしこれが可能となったら,おそらくEU ETSの高い価格(17ユーロ程度)の中におかれている欧州の企業と,まだ危機感の薄い日本の企業が「そのまま」市場で競争することとなり,獲得できるCERの量は,かなり減ってしまう可能性もあります.一方で,排出権市場の流動性や拡大スピードはかなり速まるでしょう(日本はおいていかれるような気がしますが).そこで,この点を考えてみましょう.

元来,京都議定書第17条の排出権取引は,目標設定のある先進国のみに与えられたメカニズムです.したがって,普通は発展途上国が排出権取引をできると思うことは,かなりの拡大解釈となります(むしろできないということでしょう).一方,マラケシュアコードは,発展途上国がCDMレジストリーの中にアカウントを持って,その中にCERを所有することは認めています.ただ,それを他のアカウントに移転できるかどうかは明確にはしていません(できると信じている人はけっこういますが).

この件に関して,CDM理事会は,COP 10前の第15回会合において

The Board agreed that the development and operation of the CDM registry should enable non-Annex I Parties, and project participants from non-Annex I Parties, to transfer CERs, tCERs and lCERs from their holding accounts in the CDM registry to national registries of Annex I Parties.

としましたが(これは結論というより「見解」のようですね),CDM理事会は,これをCOPへの報告には入れず(意図的?),COPでこの点に関して正式に議論されることはありませんでした(わたしは,CDM理事会がCOPに判断を仰ぐべきという考えを持っていました).

そして,第17回会合において,ユニラテラルCDMに関して

The Board agreed that the registration of a project activity can take place without an Annex I Party being involved at the stage of registration. Before an Annex I Party acquires CERs from such a project activity from an account within the CDM registry, it shall submit a letter of approval to the Board in order for the CDM Registry administrator to be able to forward CERs from the CDM registry to the Annex I national registry.

としました(これは「結論」のようですね).

さて,制度が不確定な中で動くことの多いCDMですが,この点はどうなのでしょうか?よく考えると,CDM理事会は,マラケシュアコードの上書きはできません.できるのは,その「解釈」に基づき,かつ「CDMの枠内」でのルールの細則を決めることです.

言い換えると,これらのCDM理事会の「判断」を,越権行為として,あとでCOP(/MOP)がくつがえす可能性はあります.また,CERを途上国が移転できるとしても,それは「CDMの枠内で」行うということなのでしょう(排出権取引への参加問題ではないはずです).

従来,CDM理事会の判断は,

というものでした.その観点から,上記のユニラテラルCDMに関する合意を読んでみると,

であり,したがって,あとでAnnex I側が参加してくることを想定したもの,と解釈すれば筋が通ります.たしかにCDMの枠内ですし,純粋なユニラテラルの問題を避けているし,まただからこそ,「通常のプロジェクト承認プロセスとして」Annex I側のDNAの「承認」が(登録後になりますが)必要になるわけでしょう.

言い換えると,CERは,ホスト国側の口座から移転されるのではなく,直接 Annex I側の口座にCDM登録簿のテンポラリーアカウントから入るのでしょう.すなわち,Annex I側の主体が参加者となって以降しか,CERは獲得できないということかと思います.

逆に,ユニラテラルでない通常のCDMの場合にも,ホスト側からCERを先進国の主体に移すことは想定されておらず,あとから先進国の別の主体をプロジェクト参加者に追加する場合,すべてのそれまでの参加者が合意しないとできない,ということになります.

ところが,この解釈はスタンダードなものではありません.

もし,上記のユニラテラルの場合の合意に出てくるCERを獲得するAnnex Iの主体に関して「プロジェクト参加者として」と書いてあれば,上記の解釈は成り立つと思われます.ところが,その文言がないため,なお解釈はいろいろわかれ,普通は(そこにリスクがあることを承知せずに)自分に都合のよい解釈をしているのが実情のような気がします.

ルールの「後出し」をしないというのが,マラケシュアコードの精神であったはずなのですが,現実がこのような状態では困ったことですね.この文章を書いている時点において,第19回CDM理事会が実施されています.この点は明確になるのでしょうか?

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2005年6月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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