Upper Image
Climate-Experts Logo

ウインドウ内の余白部分を左クリックすると 【メニュー】 がでます. あるいは ページ下の リンクボタン をお使い下さい.
Netscape 4 の場合,再読込ボタンが機能しないことがありますが,その場合 url 表示窓をクリックし, Enter キーを一度打って下さい.

Last updated: 2005.10.29 

GHG削減に市場を活用することの意味

今月から,Natsource Japan Letterも装いが新たになります.そこで,ここですこし温暖化問題を振り返って,京都議定書で排出権取引・共同実施・CDMという市場を活用した手法が導入されたことの意味を振り返ってみましょう.

たしかに京都議定書は,国に課せられた規制であり,その意味では,たとえば排出権取引も「国が国内対策だけでは足りない分を購入する仕組み」であるのも事実でしょう.現に,日本の政府はそのような視点しか持ち合わせていないように見えます.

しかしながら,市場を活用した手法とは,

実際に排出をおこなう主体が,排出削減の金銭的付加価値を判断しながら,排出削減のオプションを低コストなものから探し出して実施する

ための制度であるはずです.これによって,合理的判断すなわち全体的に低コストの対策から実施され,また排出削減の機会を探し出すインセンティブが生まれます.加えて

排出削減への寄与という新しいビジネス機会の創出

という側面もあるでしょう.とくにキャップ・アンド・トレード型排出権取引制度においては,

排出の総枠が確保される

とぃう環境面のメリットも重要です.

京都メカニズムとは,このような,市場を活用した手法の「特徴」を活かすように国内制度設計に組み込まれなければ,本来のメリットを捨ててしまうことになります.政府による買取制度だけでは,その本質を見誤っていると言わざるを得ません.

現に,クリントン政権はこのような効果をねらって,京都議定書に排出権取引制度などの導入を提唱・主張したわけですし,現在ではEUでこのような制度の下で,日々,(とくに燃料選択という形で)企業の意志決定が行われています.このような消費者の意志決定に「排出権の市場価格」という形で影響を与える(最適な排出削減を行う)ことが,この制度の本質といえるでしょう.

さらにこの温暖化問題を俯瞰するなら,GHG排出削減は,エネルギー消費と密接にリンクしているため,けっして容易ではありません.かけ声をかけたり自主的な行動に期待するだけで「減っていく」ことができるほど,甘い問題ではないと思います.たとえ,国際的,国内的に「規制」をかけたとしても,実際にそれが守られるかどうかは,怪しいでしょう.

その意味で,このGHG削減を「社会システムに埋め込む」ことが望まれるわけです.日本の面積は37万km2ですが,それは物理的制約として与えられているため,人々は「そういうものだ」と思って,その条件下で行動しています.世襲制だけでは困るので,土地の売買が行われ,足りなければ値段が上がり,だぶつけば下がるわけです.排出権取引制度とは,まさにこの「総枠」を「自らの手で設定」することに相当するわけで,それがきちんと守られる限りにおいて,あとは経済メカニズムが調整をしてくれるはずです.

わたしがとくに重要だと思うのは,「足りなそうならきちんと価格が上がる」ことであると思っています.単純に規制やかけ声だけで遵守しようとしても,それにはおのずと限界があります.温暖化問題のためどんどん健康被害が出てきた...というような認識でもあれば別ですが,温暖化規制で強い遵守強制力を持たせることは現状では無理があるでしょう.そこで,上記のような「価格シグナル」によって(経済原則によって)排出削減が進むような「社会システム」を導入することに意味があるわけです.

世界的には,とくに2008年からは,京都メカニズムを本格的に稼働させることになります.国際的にはこのような「国レベル」のインセンティブスキームが導入されたのですから,それがきちんと国内で実際に排出削減を行う主体に対するインセンティブスキームとして機能するような制度設計がなされることを願ってやみません.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2005年8月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



Move to...

Go back to Home
Top page

Parent Directory
Older Article Newer Article