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Last updated: 2007.01.01 

2008年以降の排出権価格はどこで決まるか?

第二コミットメント期の不確実性は依然残っていますが,第一コミットメント期に関しては,制度上の不確実性はもはやかなり少なく,準備は着々と進められています.その意味で排出権市場に関しても,かなり確かなことを言うことができるでしょう.

ここではまず,第一コミットメント期とはいつまでか?という問題を考えてみましょう.当然,2012年12月31日まで,という答えが返ってきそうです.これはある意味で正しいのですが,あまり正確ではありません.第一期に関しては,最終年である2012年の排出量実績が明らかになり,確定するまでの期間+それから100日間の猶予期間が設定されています.言い換えると,2015年のある時期まで,第一コミットメント期を引きずることとなります.一方で,第一コミットメント期で「使える」クレジットは,2012年末までの活動によるものなので,2013年になったら,第一期ものは,もはや新たに生み出されません(CDM/JIで,2012年末までの活動分のverificationが済んでいないものを除きます).

前振りが長くなりましたが,何を言いたいか?というと,「現状で予想されない特異なこと」が起こるとしたら,それは2013年になって,それ以上,市場に排出権が供給できなくなってから… ということになる可能性が高いと思います.これがいわゆるホットエアーですね.

ちなみに,ホットエアーの総量は,他の先進国の不足分を補って十分な量があります.ですが,2008年当初からこれを購入して目標達成に使おうとする国や,逆に公然とホットエアーを大量に売りに出す国もなさそうなので,当面,ホットエアーの供給は行われず,第一コミット期末あたりになって,CER/ERUの絶対量が不足するような状態になれば,これが動き出してくるものと想定されます.

そのような場合,とくにロシア「政府」のホットエアーは,政治のツールとして利用されることが容易に想像されます.ゼロコストだかあら安価で売るとか,市場価格で売る… ということは考えにくいでしょう.その意味で,それまでにいかにロシア産ホットエアー に依存せずに済むだけのクレジットを確保できるか?が,最大の需要国 である日本の安全保障上の重要な戦略となるべきでしょう.

ところで,タイトルで述べた「排出権価格」ですが,日本の民間企業が直接かかわる「排出権市場」における「価格」とは,どこの価格なのでしょうか? 2007年の京都議定書目標達成計画の見直し時点において,日本に国内排出権取引制度が設置されるかどうかは定かではありません(わたしはまだ可能性が残っていると思っています).が,それができた場合でも,おそらくそこでCER/ERUなどを「使う」ことは可能でしょうから,排出権価格はCER/ERU価格(現物)とリンクしたものとなってくるでしょう.その意味で,国内排出権取引制度の有無にかかわらず,CER/ERU価格が,日本企業にとっての「排出権価格」と言えるのではないでしょうか.

それでは,CER/ERU価格は,何によって,どこで決まるのでしょうか? 現在,CERを調達しようとしておられる方々は,欧州企業との競争にさらされ,厳しいディールを経験されておられることでしょう.欧州企業は,30ユーロという高値のEU Allowance価格を背景に,日本企業よりかなり高い価格で購入しようと動いています.最近では,イタリアの電力会社ENELが2つもHFC 23プロジェクトを獲得したニュースなども記憶に新しいところです(これは彼らの必要量をはるかに凌駕するでしょう).現在のCER交渉が,EU Allowance価格をレファレンスとしてなされるケースも多いようです.日々,交渉は難しくなる傾向にあり,ITLの遅れの懸念がなくなったら,CER価格>EU Allowance価格 となっても不思議はありません.CER「買取」ではなくCDMプロジェクトへの「投資」の比率を増やしていく必要性が出てきたと言えるでしょう.

EU Allowance市場は,およそ日量で100万トンの取引量があり,CERの一次市場より,はるかに大きな市場となっています.そこで(ある種の上限の可能性はあるとはいえ)CERがリンキング指令で使えるようになるわけですから,CER/ERU価格は,EU ETS内の状況によって決まってくると言うことができるでしょう.

言い換えると,Annex I国全体の需給関係ではなく,EUの中の,それも一部分(約半分)の排出量をカバーしているサブセット内(+CER/ERU流入量)の需給関係で,日本が調達しようとしているCER/ERU価格が左右されるということです.

もちろん,市場価格は需給関係だけで決まるわけではなく,最近は投機筋の動きも大きいようですが,ベースとなるのは,「余りそうか?」「足りなそうか?」というポイントでしょう.そうすると,現在,2008年以降のNAPの議論が動いているEU ETSのことを,よく知っておく必要が出てきます.

ここでは,それを詳細に述べる紙面がありませんが,一言だけ言っておきましょう.欧州委員会の設定したNAPガイドラインは,たとえ(国全体には大量のホットエアーが存在する)東欧の企業に対しても,ホットエアーの割当は認めていません.言い換えると,(少ないでしょうが)いくばくかのプラスのコストをかけないと,東欧企業でもEU ETS下の目標達成ができないわけです.この点が,ホットエアーを政治的に割り当てざるを得なかった京都議定書との大きな違いであり,排出権価格が高くなるひとつの要因となるわけです.また,EU ETSでは,その「外から」のAAUの流入は認めていないことも,認識しておく必要があるでしょうね.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2006年 5月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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