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Last updated: 2007.01.01
地球温暖化問題対策よりも,ずっと温暖化抑制に効くことがあります.それは,「下敷きとなる社会の選択」です.なにを言っているかすぐにおわかりになる方は,IPCCの将来シナリオに関する特別報告書SRES(および第3次評価報告書)の真意を理解されている方でしょう.
ここでまず,温暖化を特に意識した対策のことを忘れましょう(温暖化にかかわらず実施される省エネなどは実施されます).そのような世界での将来社会を考えてみましょう.いうまでもないことですが,しばしば誤解されているのが,(とくに長期的視点で)将来社会を見通す場合,それは「シナリオ」を語る(分析する)ことにほかなりません.「予測」ではないわけです(違いがおわかりになりますか?)
言い換えると,どのような将来社会を「選択」するか?ということが,われわれの手にゆだねられており,シナリオはそのオプション(選択肢)というわけですね.これは,その選択する将来社会ごとに,レファレンスシナリオそのものが複数あることを意味します.何度も強調しますが,これは将来「予測」ではありません.
温暖化を意識した対策は,この選択したレファレンスシナリオに「追加」する形で行われることとなります.そうすると,かなりGHG排出量の多い将来社会をレファレンスとして選択してしまったらどうでしょう?あるレベルまでGHGを抑えるための努力やコストは,並大抵のものではありません.一方で,あまりGHGの増加がない社会をレファレンスとして選んだなら,そこからの削減は比較的容易でしょう.
その意味で,「下敷きとなる」レファレンス社会として,どのような社会を選択するか?ということが,温暖化対策そのものよりも重要となります.それを具体的に示して見せたのが,IPCCのSRESシナリオ群であるわけです.そして,どの将来社会を選択するか,問うているわけです.
ここでもうひとつ隠れた重要な点は,いちど将来世界を選択したら(これはその方向に進むことを選択したらという意味です),別のシナリオに乗り換えたり,方向性を大きく転換することは,かなり難しいと言うことです(将来の方向性が凍りつくという言い方もできます).
将来,世界のさまざまな面で大きな影響を与える「中国の今後の経済発展のあり方」という課題を考えてみましょう.中国は急速な経済成長を行っていますが,一方で,第11次五カ年計画で5年間で20%ものエネルギー消費原単位削減目標を掲げています.そのようなレファレンス社会を彼らが選択しようとしていることは,きわめて重要ですね.
もうすこし長いタイムフレームワークでみた場合,中国は,「米国型」経済発展パターンか?あるいは「欧州/日本型」の経済発展を選択するか?というように方向性を2つに分けて考えてみましょう.米国,カナダ,豪州のような面積が大きい資源大国は,欧州や日本と比較して,一人あたり約2倍のエネルギーを消費しています.そのような国を中国が志向したらどうでしょう?おそらくさまざまな制約にぶつかって実現はできないと思いますが,実現できたとすれば,他の国がその負荷のしわ寄せを受けるということになるでしょう.
より具体的に中国の交通政策という点で考えてみましょう.毎回行くたびごとに,中国では高速道路が整備されてきています.どうも自動車をベースにした未来社会を志向しているようにも見えます.このまま,それを続けていくことが可能でしょうか?それとも,鉄道をベースにした交通体系を選択した方がいいということはないでしょうか?
交通需要は,一般には経済成長率より高い潜在需要の伸びがあります.また,これが(たとえば道路インフラの制約などで)抑制されると,それが経済発展の阻害要因となるわけですね.中国の場合,世界の石油資源制約なども効いてくるでしょう.それらの点を考えると,やはり鉄道をベースとした社会を,「現在」選択しておくことが,中国にとっても長期的継続的な経済発展をもたらすのではないでしょうか?
さらに,自動車社会を選択した場合,国内所得格差がおおきくなりつつある中国において,自動車を持つことのできる層と,それ以外の層との格差が,交通へのアクセスの制約という形で拡大するおそれがあります.鉄道でしたら,貧しい人でも利用することができますね.
このように考えると,「いま」中国が交通政策としてどのような方向性を志向するか,という点が,将来の社会にきわめて大きな影響を与えると考えられますし,いちど選択してしまうと後戻りはほぼ不可能です.逆に,いまなら,まだ,方向性を鉄道に向けることが可能です.
東海道新幹線(これは大量輸送機関です)を活かして経済発展してきた経験をもつ日本は,そのことを,中国に伝える義務があるのではないでしょうか?
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2007年1月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]