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Last updated: 2007.07.07

排出権取引制度制度と企業間競争

ご存じの通り,欧州ではすでに企業を対象とした排出権取引制度(EU ETS)がすでに第二フェーズに入ろうとしてきています.米国でも,cap-and-trade型の排出権取引制度導入は,おそらく時間の問題でしょう(京都体制とのリンクは当面は難しいでしょうが).米国は排出権取引制度の生みの親で類似のシステムが多数動いていますので,GHG対象の制度ができてもすぐにキャッチアップできます.

かたや,日本はまだ排出権取引制度の経験はなく,環境省などのパイロット的な試みが細々となされているにすぎません.世界のトレンドは,あきらかに市場を活用したGHG抑制という方向にありますので,この分野でも,日本はすでに周回遅れという状況です.

重要なことは,排出権取引制度の是非を議論するためには,その制度がどのような制度であるかをきちんと理解し,議論するところからはじめなければなりません.わたしは以前,

http://www.climate-experts.info/New_Publications.html

において,排出権取引を含んだ日本の政策措置ポートフォリオのあり方を,各種制度の特徴を明確にしながら論じたことがあります.産業論的視点から論じたものですので,ぜひ,いちどご覧ください.

また,ナットソースジャパンレターでも,「排出権取引は新たな規制?それとも新たな柔軟性?」(2001.08),にはじまって,何度か議論しています.過去のものに関しては

http://www.climate-experts.info/Column.html

を参考になさってください.

さて,今回は,企業側からの視点として,今後の地球温暖化問題に関する政策として重要なポイントである「競争」環境への影響に対して,排出権取引がそれにどう応えるか?という点を考えてみましょう.企業にとって,「競争」において不利な状況にたつことは,最大の懸念事項でしょう.競争には,日本の企業間,そして国際間の競争の両側面がありますね.公正な競争とは,競争相手と自社が同じ土俵に立っているかどうか?という点でしょう.この点を考察してみましょう.

国内の場合,温暖化対応に関しては,現在は「自主的」な行動がベースになっています.自主行動計画は,当然,自主的な取り組みであるわけですから,どの程度の取り組みを行うか?という点は,本来は各企業が自主的に決めるべき性格のものです.日本の場合,各業界や経団連という一種の「自主調整機能?」が働いているのも事実でしょう.この「自主調整機能」をどの程度の企業がベストの方法と思っているかは,部外者にはなかなかわかりにくいところがあります.

一般には,業界や経団連は,外部からの圧力に抗する利益団体という性格と,内部調整(枢演ラ分担調整)機能とがあるでしょう.前者は,国としての義務が明確となっている点,京都議定書目標達成計画がなかなか思い通り行っていない点,温暖化規制が徐々に強化されていくことが世の中のトレンドである点などを考えると,規制圧力は,目標達成計画の中で強化されていくことは避けられません.いつまでも抗していくことはできないはずです.

一方で,国際的には,EUの企業は排出権取引制度の下で,社内,社外(および国外)のGHG排出削減オプションを自由に組み合わせる方法を実施してきています.日本とEUの京都議定書の下での規制の厳しさは,ここでは論じません.第一期の京都目標自体はもはや動かせないわけですから.ただ,EU企業が社内外のオプションを低コストのものから自由に組み合わせるフレキシビリティーを持っているのは事実で,それを持たない日本と比較して,大きな比較優位を有しているのは事実でしょう.

米国や発展途上国の企業との競争の問題はどうでしょうか?彼らは直接の温暖化規制の影響を受けていない状況です(米国ではその動きは出てきていますが).彼らと競争するにあたって,日本企業ができるだけ温暖化関連のコストを低くすることは重要です.ただ,日本に存在する以上,日本の京都議定書目標の影響は必ず受けるわけですから,それを嘆いても仕方がありません.できるだけ低コストでGHG排出削減ができるためには,やはり社内外(とくに海外)でのGHG削減オプションを自由に選択できる柔軟性が重要となります.

日本は,政府がどのような規制を行おうとしているのか,2008年間近の現時点に至ってなお明確ではありません.海外でのクレジット調達が自社内排出削減よりはるかに低コストで行うことができることはほとんど場合,明らかですので,担当者がそのような提言を行っても,政府規制が存在しないため,それが社としての動きとならないことも多いのが事実です.

本来,企業にとっての本当の脅威とは,(規制の有無というより)将来の不確実性であるとわたしは感じています.不確実性が低くなれば,企業は的確な判断ができるはずです.その意味で,温暖化規制の将来が不透明であることが,明確となっているEU企業との競争において,日本企業にとって最大のハンディキャップでしょう.

一方で,どのような制度であって欲しいか?というような企業側からの提言もありません.温暖化規制が避けられないと思うなら(わたしはそう思っています),その中で,ベストな政策とはどんなものであるか?を議論しておくべきでしょう.その際,重要になる点は,

(A) 制度の透明性と将来の方向性が明確であること

(B) とくに国際間の柔軟性(CER/ERUが使えること,欧州市場とのリンク)

(C) 国内企業間の負荷分担の方法

(D) 国内他部門との公平性

(E) 技術開発促進策

などの点ではないでしょうか.

(A), (B) に関しては役所の仕事であるわけです.ただ,産業界も声を大にして主張できる(すべき)と思うのですが,いまのところ,規制導入への恐怖からか,声は小さいですね.

(C) の点で役所の判断が信じられなければ,業界全体に対する目標のみを決めてもらって,あとは業界の「自主調整」能力を活かすということもできます.

(D) の点と (E) の点は重要ですね.日本企業は,日本の一員として京都議定書目標達成の一翼を担うことには反対していないと思います.ただ,伸びている民生・運輸部門の「ツケ」まで払わなければならないことに対する不満は強いわけです.

実際,民生・運輸部門の「責任」を産業界が「肩代わり」するのであれば,それ相応のリソースの移転があってしかるべきでしょう.これは,産業界が政府に主張することができると思います.すなわち,民生・運輸部門は,お金を払うことで日本の一部としての自分たちの「責任」を果たすことになり,その資金は実際に排出削減(社外・国外の削減を含む)を行う産業界に移転されるということを意味します.

排出権取引制度は低コストでの排出目標の達成を可能にするわけですが,一方で逆に,(排出権取引が存在しない場合より)技術革新を遅らせる効果がある,という意見もあります.おそらくこれは真実でしょう(排出権取引は高効率技術の「普及」目的には役立ちますが,「開発」への効果は小さいでしょう).それでは,だからといって低コストオプションである社外・海外からの排出権調達を禁止もしくは放棄すべきでしょうか?これもおかしなことですね.

日本の最大の特徴は,製造部門の技術力であるわけで,それが日本の高コスト構造の「おかげ」という側面があったことも事実でしょう.温暖化規制は,この高コスト構造に拍車をかけるという面があるわけですが,どの程度であればいいのでしょうか?

よく考えてみれば,これは一次元的な問題ではないことがわかります.言い換えると,できるだけ温暖化規制にともなうコスト増を抑え(これは排出権取引制度の導入ですね),同時に,技術開発力を促進することも可能です(これは別の手段を用います).

一例としては,上記の国内全セクターの責任分担(=負荷分担)の考え方に基づいて,もっとも削減の難しい(瑞S理的削減コストの高い)民生・運輸部門から徴収した財源の一部を,産業界の技術革新が進むような方策に振り向ければいいわけですね.

このような考え方は,国民のコンセンサスをとることがそれほど難しいとは思えませんし,産業界にとっても競争力を高めるために魅力的な点があるでしょう.もちろん,個々の措置に関してはさまざまなテクニックが必要かもしれませんが.

みなさんもぜひ,どのような方法が,日本にとって,とくに産業論の視点においてベストな方法であるか,冷静に考え,提言してみてください.すばらしいアイデアが生まれたら,いまならまだ政策に取り入れられる可能性があるでしょう.

さいごに...排出権取引制度は初期割当方法がむつかしい...という意見があります.これは,その制度導入によって,負荷分担が異なってくることを意味します.ただ重要なのは,どのような政策措置を導入する場合においても,必ず負荷分担の問題は生じます.したがって,他の政策措置の場合との相対比較で考えるべきものであり,また排出権取引制度の場合でも非常に多くの初期割当方法が存在します.どんな方法が望ましいのかを考えてみましょう.

また,今回は,排出権市場や温暖化規制がもたらす新たなビジネス機会に関しては論じませんでした.この点に関しても,日本が世界をリードしたいものですね.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2007年 2月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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