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Last updated: 2008.6.25

国内排出権取引制度における発電CO2の扱い

問題意識

ようやく日本においても,排出権取引制度導入が現実性を帯びてきました.

排出権の生みの親である米国,GHGに関する排出権取引制度で世界をリードしている欧州は,実は,けっこう大きな失敗を経て,現在に至っています.米国でもSO2取引制度の裏に,1970年代から数多くの失敗例がありました.EUでも,英国制度は失敗でしたし,EU ETS第1ピリオドもバンキングを入れなかった点は失敗と言われても仕方がないでしょう.

問題は,日本はそのような経験を経ずに,まともな議論を避けてきたわけです.先日(4/17)の経済団体トップによる主要8カ国ビジネスサミットでは,それがいみじくも現れていたと思います.経験を積んで本質を理解している欧州経済界の面々は,キャップアンドトレードにもきわめてポジティブで,その経験がない国々は,ネガティブな反応でした.

さて,日本の場合,実際の経験はほぼゼロです.よく知らない状況の下で,バイアスのかかった制度設計をすれば,おそらく欧米と同じように,最初は失敗するでしょう.そのためにも,制度の本質をよく知ることが重要です.

そのためにも,(いままでもときどき取り上げましたが)これから何度か,国内ETSデザイン上のポイントを考えてみましょう.


発電からのCO2排出量の責任の所在

欧米では,排出の責任は,物理的に排出した者とされる場合が多いようです.EU ETSにおいても,発電からのCO2排出は,電力会社もしくは発電事業者の責任であるわけですね.

一方で,日本では発電にともなうCO2排出量を,電力のユーザーである最終消費側に割り振った計算もよく目にします.これは,とくに電力に関しては,発電側ではなく,むしろ需要家側に責任があるという考え方と言えるかもしれません.実際,EU ETS方式の排出権取引制度の下では,工場などは「省電力」をしてもCO2排出削減とはみなされないわけですね.

ここで,もともと発電燃料の持っているエネルギーが,どのように電力という非常に使いやすいエネルギーになるか?を考えてみましょう(火力発電所です).

下図に示されているように(エネルギーの内訳を表したものです),燃料の持つエネルギーの半分程度は,発電所でもはや利用できない熱損失となってしまいます.これには,発電所を動かすための電力も含まれます(所内率で表されます).それから,最終需要家に届けるまでの送配電ロスがありますね.そして残ったエネルギーが電力として,採取需要家に届けられるわけです.


また,この図においては,電力の最終消費の観点から,ETSでカバーされる範囲(エネルギー指定工場など)と,カバーされない部門(民生や運輸部門など)に分けてあります.

図のバリエーションAで表されたものは,それらすべてを電力会社の責任分とする考え方です.EU ETS方式ですね.

バリエーションBは,所内ロス+送配電ロス のみが電力会社の責任分とする考え方です.この場合,熱となって発電所で逃げたCO2排出分(比率)は,最終消費電力分を含めて,工場などの責任分となります.この方法では,工場側で省電力インセンティブが大きく働きますが,民生での電力消費はETSでカバーできません.

バリエーションCは,AとBの折衷案で,民生での電力消費からのCO2排出は上流まですべて電力会社の責任とする考え方です.こうすると発電からのCO2排出量のすべてをETSでカバーできますね.

ほかにもこれらの亜流がありえますので,いろいろ考えてみてください.

なお,たとえば,電力会社にとって,責任が大きい方が望ましくないかどうか?という点は,総括原価への算入の可否など,さまざまな別のファクターで決定されますので,単純ではありません.競争上にも大きく影響するでしょう.ただひとつ言えるのは,EU ETS方式は,電力会社は非常に大きな市場におけるパワーを持つこととなると言うことです.


下流割当+上流遵守型制度

さらにドラスティックなバリエーションも考えられます.これは,民生は上記のバリエーションCと同じですが,産業部門に関してはかなりユニークな考え方です.方法としては,


産業部門の各工場(もしくは企業)に対しては排出目標設定

その分の排出権を各工場(もしくは企業)に割当

各工場(もしくは企業)は,電力会社に(電力料金と共に)排出権も支払う

(kWhあたりの排出権必要量は電力会社が設定)

電力会社は期末に消費した化石燃料分の排出権を所有している義務あり

というものです.

キャップアンドトレード型排出権取引制度では,通常は,割当を行う(=目標設定を課す)対象が,規制遵守(=排出量分の排出権を期末に所持)する必要があるわけですが,それを「分ける」方法です.

排出権は,どのような方法で調達してもいいのですが,電力会社は下流の消費側企業から,主として,調達するという考えですね.

こうなると排出権はもはや商品(commodity)というより貨幣(currency)になり,より経済活動に内包化することができます.上流も下流も排出権取引制度の柔軟性の恩恵を受け,また排出権を通じて,CO2削減の意識付けができるでしょう.



究極の排出権取引制度

さらにこの考えを推し進めたものが,たとえば一人あたり10トンの割当を行い,あとは化石燃料輸入業者+生産業者が,販売分の化石燃料相当の排出権を期末に所持しておかなければならないとする制度です.付加価値税のような形で,各中間段階で,お金だけでなく排出権での支払いが行われます.間接排出の考え方も入っています.

一人あたり等量ですので,割当の不公平感はまったくないでしょう.日本全体の目標達成もオートマティックですし,増えつづける民生や運輸部門も全部カバーできます.経済への内包化も,ここまでくるとすばらしいですね!せっかく後発なのですから,このくらいドラスティックな制度を導入したらいかがでしょう?

これらをより詳しくご覧になりたい方は,http://www.climate-experts.info/New_Publications.html の「日本の国内政策措置ポートフォリオ提案」をご覧下さい

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2008年5月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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