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Last updated: 2008.8.1

洞爺湖サミットを振り返って

地球温暖化問題のサミットにおける位置づけ

8年ごとに巡ってくるG8サミットが,今年は洞爺湖で開催されました.とくに,地球温暖化問題に関して,洞爺湖の結果をどう読むべきか?という点を考えてみましょう.以下, 色で囲った部分はその首脳宣言からの抜粋です.

まず,特筆すべきことは,地球温暖化問題がなんとG8サミットの最重要課題となっているという事実です.その他にもさまざまな重要課題があるにもかかわらず,ここのところ,サミットでの主要議題のひとつとして定着してきました.地球温暖化が今後軽減するという見込みはほとんどないので,これからも毎回すくなくとも主要課題の一つとして取り上げられる可能性は強いでしょう.

サミットの地球温暖化問題における位置づけ

G8サミットは,言うまでもなく先進国首脳による討議の場です.その時点の国際的な重要課題に関する議論がなされるわけですが,地球温暖化問題に関しては,サミットは意志決定の場ではありません.国際的な決定(これは交渉の結果の妥協の産物でしかありえません)は,あくまで気候変動枠組条約という国連の条約の締約国会議で決定されていくべき性格のものであります.

我々は、気候変動との闘いにおいて力強い指導力を発揮するとのコミットメントを再確認し、この観点から、バリにおいて採択された決定を、2009年までに国連気候変動枠組条約(UNFCCC)プロセスにおいて世界的な合意に達するための基礎として歓迎する。我々は同プロセスの成功裡の妥結にコミットしている。

G8サミットには,一方で,先進国の首脳レベルで,政治的モーメンタムを生み出したり,長期的なビジョンを宣言したりするという役割があると言えるでしょう


また,宣言を読まれた方は,最初のパラにおいて,IPCCの成果の重要性を再確認していることに気付かれたでしょう.

我々は、最も包括的な科学評価を提供する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書の重要性を再確認するとともに、我々の気候保護努力を導くべきである科学に基づくアプローチが継続することを奨励する。

昨今,地球温暖化の(希薄な根拠の下での)懐疑論をメディアが扇動的にとりあげているケースが目に付きますが,これはそれに対する明確なこたえとなっています.地球温暖化問題は,依って立つべき科学的知見のコンセンサスを確立していかないと,対策を前に進めることができません.IPCCは,まさにそのための国際プロセスなのです.

2050年目標の意義

洞爺湖サミットの地球温暖化問題における最大の成果は,「2050年グローバル半減」を,「目指すべきビジョン」として,米国を含めた先進国の総意として認め,他の国にシェアすることを求めた,と言うことでしょう(他国にも求めるということは,当然,自分たちもそう思うということですね).「中国などの主要排出国の貢献」という留保付きとも読めますが(逆に米国の貢献も意味しているとの解釈もできるでしょう),たしかにハイリゲンダム(we will consider seriouslyノ)より,半歩前進したと言えるでしょう.

我々は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を達成する目標というビジョンを、UNFCCCのすべての締約国と共有し、かつ、この目標をUNFCCCの下での交渉において、これら諸国と共に検討し、採択することを求める。その際、我々は、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力という原則に沿って、世界全体での対応、特に全ての主要経済国の貢献によってのみこの課題に対応できることを認識する。


2050年というのは,実は長期のようでいて,たった42年後に過ぎません.これを読んでいる人の多くはまだ存命中でしょう.人類の歴史上でもけっして長い期間とは言えませんし,ましてや地質学的なタイムスケールではあっという間です.宣言でも述べられているように,温室効果ガス濃度安定化(条約の究極の目標)への一里塚なのですね.ただ,現代人の感覚から言えば,かなり長期という認識でしょう.その将来世代に向けての現代の最高責任者からのメッセージであると言うことでしょうね.

我々は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を達成する目標というビジョンを、UNFCCCのすべての締約国と共有し、かつ、この目標をUNFCCCの下での交渉において、これら諸国と共に検討し、採択することを求める。その際、我々は、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力という原則に沿って、世界全体での対応、特に全ての主要経済国の貢献によってのみこの課題に対応できることを認識する。


主要発展途上国の参加

中国やインドなどの主要排出発展途上国に,どのような表現で呼びかけをするかも,今回の注目点でした.関連する文章としては,以下のようなものがあります:

すべての主要経済国による約束又は行動の強化が気候変動への取組のために不可欠である。そのため、我々は、主要経済国首脳会合によるUNFCCCに対する積極的な貢献を支持する。
その際、我々は、共通だが差異のある責任及び各国の能力という原則に沿って、世界全体での対応、特に全ての主要経済国の貢献によってのみこの課題に対応できることを認識する。
我々は、共通だが差異のある責任及び各国の能力の原則に沿って、先進主要経済国が行うことと途上主要経済国が行うことは異なることを認識する。
実効的かつ野心的な2013年以降の世界的な気候に関する枠組を確保するためには、2009年末までに交渉される国際合意において拘束される形で、すべての主要経済国が意味ある緩和の行動をコミットすることが必要である。

ここで,主要経済国「全体」の話と,その中の「途上国」の役割が異なることに注目ください.「共通だが差異のある責任」という言葉の持つ意味は大きいですね.

2009年末のコペンハーゲンで「意味のある行動をコミットする」とはどういうことでしょうか?先進国に関しては,京都議定書の第2期の交渉を成功裏に終えるということであると同時に,これは米国次期政権への第2期への参加のメッセージと受け取ることもできるでしょう.

途上国に関しては,(あまり知られていないかもしれませんが)緩和策だけでなく,包括的な枠組み(先進国も含む)を模索するという形で国際交渉が動いています.交渉はパッケージで動きますので,アメとムチを使いながら,これから国際交渉が動いてくるでしょう.まだ現段階ではアメが小出しになっている感じですが...ちなみに,ムチに関しては,EUなどがRoHSの温暖化版をちらつかせてくる可能性はあると思います.

日本の立場はどう活きたか?

毎年のG8サミットでは,議長国の意向が色濃くステートメントに現れます.今回の洞爺湖においては,それは(もはや誰も重視していないが無視もできない)ブッシュ政権に上記のような妥協をさせたという調整力に加え,セクター別アプローチが挙げられるでしょう.

セクター別アプローチは、各国の排出削減目標を達成する上で、とりわけ有益な手法である。我々は、この問題を明日、他の主要経済国の首脳と議論し、さらに、向こう何か月間にわたり、主要経済国間で、またUNFCCCの交渉において議論を続けることを期待している。

セクター別アプローチは、経済成長と両立する形で、既存及び新しい技術の普及を通じ、エネルギー効率を向上させるとともに、温室効果ガス排出量を削減するための、有用な手法となり得る。我々は、IEAに対して、経済界のイニシアティブも得つつ、データ収集の改善を通じ自発的なセクター別指標に関する作業を強化するよう要請する。

我々は、エネルギー効率に関する、中期的な、展望としての目標を設定することの重要性を認識する。

セクター別アプローチは,少なくとも先進国に関しては,絶対数値目標のスキームを「補完する」ものとして位置づけられています.けっして代替するようなものではありません.

一方で,途上国に対しては,数値目標の代替として機能するということもありうるでしょう.ただそれは宣言でも述べられているように,(すくなくとも当面は)「展望」としての位置づけでしかないと思います.原単位(指標)の強制力のある数値目標をつくることは一足飛びには難しいでしょう.原単位(指標)の「定義」だけで,数年の歳月を要することは目に見えています.一方で,ある技術の導入を義務づける...というアプローチなら,すぐにでもできるでしょう.

まず始めることは,(宣言で述べられているIEAなどの成果を活用しつつ)UNFCCCの下でデータベースを作成するプロセスをはじめることのような気がします.各国のGHGインベントリー整備が,京都議定書の数値目標スキームに結実したように.もちろん,これは先進国にとっても有用ですね.

今後に向けて

来年にむかって注目されるのは,イタリアでのサミットです.米国は新大統領が参加し,大きく方針転換をするでしょう.加えて,コペンハーゲン会議を年末に控えるタイミングですので,政治的モーメンタムをどのようにつけようとするのか?どこまで踏み込んだステートメントが出されるか?目が離せませんね.

中国などにとって,「まず中国などのコミットを」という米国のスタンスが「われわれはコミットし,われわれから始める」に変わった場合(そうなる可能性はそれなりに高いと思われます),責任感のボールが中国などに投げ返された形となります.これは,コペンハーゲンでのLong-Term Cooperative Action国際交渉プロセスに活きてくるでしょう.

ただ,誤解がないようにしておかなければならないのは,コペンハーゲンにおいて中国などに排出規制を課す国際協定が策定される見込みは限りなくゼロに近いでしょう.国際交渉はそのようなマイルストーンを設定して動いてはいません.ただ,そのための「プロセスの立ち上げ」ができたなら,それはすばらしい成果といえるでしょう.一歩一歩進んでいくしかないのですね.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2008年8月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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