Upper Image
Climate-Experts Logo

ウインドウ内の余白部分を左クリックすると 【メニュー】 がでます. あるいは ページ下の リンクボタン をお使い下さい.
Netscape 4 の場合,再読込ボタンが機能しないことがありますが,その場合 url 表示窓をクリックし, Enter キーを一度打って下さい.

Last updated: 2009.01.02

温暖化におけるアクションにともなうリスクとは?

地球温暖化問題に対する規制などが導入,もしくは厳しくなっていくことは,どうも必然のように見えます.企業の観点からは,これは「ビジネス環境の変化」のひとつにほかなりません.言い換えると,このビジネス環境の変化に,できるだけ先手を打った対応が求められます.ここでの対応には,規制というコスト増加への対応という側面と,新しいビジネス機会が増えるという側面とがありますね.

ところが,欧米の企業の動きに対し,日本の企業の動きが実に重いように見えます.それはなぜでしょう?

おそらく,理由の最大のものの一つは,「世の中がどうなっていくか?」を,判断しかねているということかと思います.とくに,規制フレームワークがどうなるか?を,適切に読んで判断ができていないわけですね.たとえ,企業の担当の人が新しいことを考えたとしても,会社の上層部への説明において,その必要性をきちんと説明できていないことかと想像されます.

それでは,アクションをとることを躊躇わせる理由はどんなところにあるのでしょうか?

ひとつは,「レギュラトリー・リスク」をきちんと評価できていない,という点が挙げられるでしょう.リスクの大きさや性質を評価できれば,アクションをとるべきかとらざるべきかに関して,合理的な判断ができるはずです.

もうひとつは,「アクションをとらないことのリスク」を考慮していない,ということでしょう.

ちなみに,リスクはきちんと評価できれば,評価できない人に対して比較優位となることは,言うまでもありません.あくまで相対的なものです.

レギュラトリー・リスクとは?

規制フレームワークがどうなるか分からないノ という状況では,なかなか行動に移せないでしょう.しかし,ここでの「規制」とは,何でしょうか?

「国際的枠組み」のことでしょうか?それとも「国内規制」でしょうか?

国際的枠組みの行方

一般には,企業は国内規制に縛られます.国に対する国際的な規制が直接企業を対象とする可能性は,地球温暖化問題に関しては低いでしょう.ですが,国際的な国に対する規制が,その次に国内企業に対する規制という形で影響を及ぼす(ブレークダウンされる)でしょうから,その動向は,近い将来を見通す上で重要となると思われます.

この動向を見極めるには,現在動いている国際交渉を見てみればいいわけです.2012年末までの話でしたら,すでに決定していますので,言うまでもなく不確実性はまったくありません.

2013年以降の話でしたら,2トラックで動いている国際交渉AWG-KPとAWG-LCAをウォッチすればいいわけです.前回のバリ会議の関連決議文書を読まれた方はどれだけあるでしょうか?日本のメディア情報は偏っていたりしますので,ちゃんとご自分で読まれることをお勧めします(日本のメディアでの報道はかなり限定的ですし,AWG-KPとAWG-LCAと区別していないことも多いようです).

それでは,この2トラックのうち,日本企業にとってどちらの影響が大きいでしょうか?もちろん,AWG-KPすなわち京都議定書第二期交渉の方ですね.こちらが先進国への規制です.いまの交渉をみると,2020年に1990年比でマイナス20%程度の目標レベルがイメージされているようです.日本がその省エネ水準の高さを主張できたとしても,マイナス15%程度がいいところでしょうか.米国の動向が気になりますがノ 要は「いまよりかなり厳しい水準になることは避けられないだろう」と言うことです.

なお,京都議定書がなくなってしまうことは全く想定されていませんので,あしからず.言い換えると,CDMがなくなってしまうという心配は不要です.いまの国際交渉では,CDMの修正や枠を拡げることは検討されていますが,CDM自体に反対している国は皆無ですし,そのようなことは全く交渉の遡上に上っていません.

AWG-KPの結論(第二期の目標)は,来年12月のコペンハーゲン会議で決定することとなっています.(わたしは可能性としては低いと思いますが)その翌年にずれこむ可能性は残っています.

ちなみに,AWG-LCAは,発展途上国を含めた大きな枠組みをどうしていこうか?という気候変動枠組条約全体の国際交渉です(京都議定書ではありません).すぐに途上国向けの新しい条約ができるノ というスケジュールでは動いてきていませんし,先進国への規制がこれで新しく入ることもないでしょう.

なお,UNFCCCの下ではありませんが,欧州の規制は気になるところです.国際航空に対する規制が導入されることは,もはや疑う余地はありません.その他にも,欧州はローカル規制やルールを,世界のデファクトにすることに長けていますし,それを意図した戦略を採ってくる傾向にあります.

米国に関しては,オバマ新政権は,かなり強力に国内規制とくに排出権取引制度を導入して進めてくると思われますが,これが国際スキームとどう係わってくるか?が注目点でしょう.もし京都議定書の枠外にとどまるのであれば,市場をリンクさせることには技術的な困難が伴います.

国内規制の行方

国内の規制に関しては,省エネ法の方はだいたい見えていますので,現時点で不確実性に伴うリスクはかなり小さいでしょう.

排出権に関しては,「試行」が2012年末程度まで実施されることもほぼ明らかですので,それまでは新しいものが入る可能性は小さくなったと言えるでしょう.国内クレジットの方は,小さいものがいくつも動いてくるでしょうね.

環境税は,よくは見えませんが,環境問題と言うより,きわめて政治的な問題として動くことになるでしょう(それが「税金」の常ですね).

気になるのは,京都議定書の第一期に大幅に京都クレジットが足りなくなるのが目に見えてきたときに(これはもはや避けられません),急に規制が強化される可能性です.特に政権政党が変わった場合,(いままでの産業界との関係がなくなるので)その可能性は高くなると思われます.

もうひとつの課題は2013年以降でしょう.国内の排出権取引制度の試行は,うまく機能しないでしょうが(先月のコラムをご覧ください),それをどう解釈するか?という点が見えません.

いずれにせよ,経団連の自主行動計画の2020年バージョンを作成するという可能性はきわめて低いでしょうから,方向性は見えてくると思います.

日本は,役所はビジョンやプランを示そうとしない傾向にあります.地球温暖化問題はまさにこれの典型ですね.これによる機会損失は非常に大きなものがあると思いますがノ 政治のリーダーシップという点で,福田ビジョンはそれを出したわけでしょうが,それがどのように今後実現化していくか?が課題でしょう.政治家の関心が,政治ではなく,政局にあることが問題ですね.

アクションをとらないことのリスクとは?

国際的な交渉をきちんとフォローするかどうか?は,企業側の課題でしょう.一方で,国内規制の不確実性は,その責任の多くは,政府にあると思います.

もうひとつ,企業側の課題として,「アクションをとらないことのリスク評価」を行わないノ という問題点があります.これは何も温暖化問題対応という点だけではないと思いますがノ

「何もしない」という判断ももちろんあるわけですが,それはアクションを起こすことのリスクが大きいノ というのではなく(リスクの大きさを評価できることが前提ですが),アクションを起こすことと起こさないことのリスク(や便益)の大小を相対評価して,判断すべきですね.

大きな予見できるビジネス環境の変化に関しては,できるだけ事前に,対応のオプションを検討しておきたいものです(すでに変化しているのにそれを行わないのでは困ります).

規制対応というだけでなく,CSR的な観点からも重要ですね.たとえばカーボンディスクロージャーという欧米企業の動きをご存じでしょうか?

一例として,2013年以降のCER調達ノ ということを考えてみましょう.現在,日本で2013年以降のCERを調達に動いている企業はすくないでしょう.世界でもあまり多くはありませんので,まだ価格交渉は強気に出られると思われます.

どうして2013年以降のCER調達をしようとしないのでしょうか?

地球温暖化問題の規制は,強化されることはあっても,なくなることはありえないでしょう.京都議定書の制度のリスクは上述のようにきわめて小さいと思われます.日本の国内規制が見えないからでしょうか?強化されていくことは,ほぼ間違いないように思われます.

すなわち,制度上のリスクはかなり小さく,リスクはむしろCER価格が不透明であるということでしょうか.これも欧州で売れれば問題はないでしょうが(EU ETSでは間違いなく規制は強化されていきます),それが制限されるリスクはあるかもしれません.ただ,CERはどこででも使える排出権としての位置づけを持ってきていますので,大幅な価格低下の可能性は小さそうです.

一方で,いまのうちに調達しておかないリスクはどうでしょう?いつまでもある程度の低コストで調達できるでしょうか?規制がかなり厳しくなることが見えてきたら,欧州企業を筆頭に,どんどんおいしいものからなくなっていくことは目に見えています.かなり高コストでしか調達できないリスクは高いでしょう.いま,日本企業が買っているプロジェクトから,2013年以降分は欧州や米国企業が先に買っていく... という可能性もあります.そのリスクも評価すべきでしょう.日本政府が国際交渉でがんばって,欧州よりはるかに緩い目標を勝ち取ってくる可能性に賭けるリスクも考えておくべきでしょうね.

いまのCDMのルールでは,プロジェクト参加者を増やすためには,現在のプロジェクト参加者の総意が必要ということになっていますので,すこし歯止めはありますが,あまり知られていないと言うことと,このルールがいつまでも続くという保証はないというリスクがあります.

来年12月のコペンハーゲン会議の前には勝負は決してしまうノ というのは,思い過ごしでしょうか?



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2008年 12月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



Move to...

Go back to Home
Top page

Parent Directory
Older Article Newer Article