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Last updated: 2009.01.02

先進国の2013年以降の数値目標の行方

Poznan会議に至るまで

ポーランドのPoznanにおけるCOP 14およびCOP/MOP 4が終わりました.来年末のコペンハーゲン会議に向けての中間地点だったわけで,来年はいよいよフル・ネゴシエーション・モードに入ります.

さて,今回は,国際交渉における多くのイシューのうち,日本にとっての意味がきわめて大きいにもかかわらず,なぜかほとんどそれが(日本では)認識されていない「京都議定書の先進国第2期数値目標」に関して考察を加えてみましょう.

なお,このイシューは,バリ行動計画で規定されている「先進国および発展途上国すべてを含んだlong-term cooperative action」に関する気候変動枠組条約の下での交渉プロセスAWG-LCAとは異なります.一般に,次期枠組み交渉として日本で理解されているのはむしろAWG-LCAですね.あるいはこれらの違いを理解せずに議論されたりしている気がします.

それから,発展途上国の目標が決まらなければ先進国の目標も決まらない...などというような合意は全くありません.米国の動向にも原理的には左右されない形で,先進国目標の交渉プロセスは形成されています.

歴史的経緯

京都議定書は,2008-12年の5年間が第1コミットメント期であるわけで,続いて第2期が始まります.京都議定書がなくなってしまうわけではありません.また,その京都議定書の次期目標は,議定書附属書Bの改正という形をとります(議定書本体の改正ではありません).

議定書の附属書Bには,たとえば日本: 94%というように,先進各国の数値目標が記載されています.

この交渉プロセスは,2005年末のモントリオールのCOP/MOP 1(議定書の第1回締約国会合)でAWG(アドホック・ワーキンググループ)として開始することが決定されました.第2期が2013年からであることもその時に決まっています.

2年後の2007年末のバリのCOP/MOP 3において,2009年末のコペンハーゲンでのCOP/MOP 5においてこのAWGのプロセスの結論に合意することが決定しました.

なお,上記の別トラックで動いているバリ行動計画側は,モントリオールでダイアローグが開始,バリでAWG (AWG-LCA)の設置,コペンハーゲンで5つのブロックに関しての(何らかの)合意することが決まっています(が,これは京都議定書側とは別です).

5つのブロックとは,shared vision, mitigation, adaptation, technology, financeです.発展途上国のmitigationに関するコミットメントはそのmitigationの中に含まれる一要素に過ぎません.

Poznan会議の結果とその意味

Poznan会議における結論

まず重要な認識として必要なのは,コペンハーゲンにおいて議定書附属書Bを改正するためには,その6ヶ月前までに改正案ができていなければならない,という手続き面での制約があるという点です.これは,2009年6月7日までにそのような「案」を作成することが必要であると言うことを意味しています(12月のコペンハーゲン会議までではありません).

そのための2007年のAWG交渉会議のタイムフレームとしては,

という予定となっています.

各国の数値目標は,「排出量の絶対量」に対する目標であり,京都交渉の時と同じくQELRO (Quantified Emission Limitation and Reduction Objective)と呼ばれています.第1期と同じキャップアンドトレード規制が用いられます.原単位やセクター別の規制ではありません.

目標の値以外にも,関連するものとして,コミットメント期の長さ,数値目標の表記方法(ある基準年比という表現方法を採るか?),GWPの値,LULUCF(吸収源)の扱い,GHGを増やすかどうか?国際運航燃料の扱い,セクター別目標を(追加的に)設定するかどうか?京都メカニズムの(マラケシュレベルでの)改良などのポイントがあります.

Poznan会議における結論の再考

この数値目標交渉の重要な点は,まず全体枠に合意してから,各国目標にそれをブレークダウンしようとしている点です.よく考えてみると,前者が「環境問題」,後者が「相対的公平性の問題」を扱っていることがわかるでしょう.この段階的に「まず総枠から」という考え方は,物事を整理するという点でも,科学を前面に出すという点でも,望ましいアプローチでしょう.もうひとつのAWG-LCAで交渉中のshared vision(2050年のグローバルな排出ゴールなどが設定されることが期待されています)も同時に4月はじめにコンセンサスが得られることが期待されます.

本来は,京都メカニズムをどう改良するか?などのポイントが整理されてから数値目標の交渉に入った方がいいのでしょうが,時間の関係上,先に数値目標の交渉を行わざるを得ないようです.

各国の数値目標へのブレークダウンは,おそらく「何らかのクライテリア」を設け,それをもとに行われようとするでしょう.セクトラルアプローチとは,そのひとつであるわけです.わたしは,唯一のクライテリアですべての先進国が合意できるとは思えないため,合意の方法としては,複数のクライテリアから自由に選択できるメニューアプローチしかないと思っています.ちなみに,これらはいままでのAWGでまったく「交渉」されてきていません.

さて,あと一年でも厳しいと思われていた数値目標交渉が,実はあと半年しか余裕がない... のでしょうか?そもそも半年前までに用意しておかなければならない「交渉案」とはどのようなものでしょうか?京都議定書第21条には,"The text of any proposed annex or amendment to an annex shall be communicated to the Parties by the secretariat at least six months before the meeting at which it is proposed for adoption." とあります.

通常でしたら,条文に [ ],すなわち「変更されるかもしれない案」の形で文章が記載されるのですが,附属書Bは数字ですので,全部 [ ] に入った数字の羅列となるのでしょうか?一方で,クライテリアの文章や数式が附属書Bの表記として入るとは考えにくいでしょう.EU,豪州はすでに目標を宣言/発表していますし,日本もそのうちに出してくるようですので,その数字をとりあえず,記載することになるのでしょうか?

その意味では,比較的容易に決まるかもしれません.もし,3/4 月のAWGで総枠に合意できたなら,それに合わすように,比例的に各国の自己申告の数字をシュリンクさせればいいわけですね.ホットエアーの問題は別途考える必要があるのでしょうが...

日本にとっての意味

日本が主張していたセクトラルアプローチは,先進国に関しては,各国目標の差異化のクライテリアとして考えられています.もし,6月はじめにある程度の合意をするのでしたら,かなり具体的な案をすぐにでも提出しないと間に合わないでしょう.

一方で,どうも各国が「自国の目標」を独自に宣言/発表することで,差異化がなされてしまうような方向性にも見えます.そうすれば,セクトラルアプローチの出番はありません.

そのあたりを含めて,できるだけ早期に考え方を整理する必要があるでしょう.

最後に,大本営発表である 日本代表団発表資料 の該当部分をみてください.わたしが書いたような意味合いのことは,まったく伝わって来ないようです.まさかこの問題の喫緊性と日本にとっての意味合いを理解していないとは思えないのですが...

なお,会議全体の報告は,プレゼン資料 の形でまとめてあります.ただ,ちょっと専門的すぎるのと,言葉で補う形の資料の状態ですので,これだけではわかりにくいと思います.もしその意味するところがお知りになりたければ,ご連絡ください.



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2009年 1月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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