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Last updated: 2010.11.28

Cap-and-Trade制度の論点: 環境省パブコメ

環境省から「キャップ&トレード方式による国内排出量取引制度の論点」に関して,パブリックコメントを求めるプロセスが実施されました.そこで論点とされているいくつかのポイントに関して,問題を整理してみましょう.

対象期間,バンキング,ボローイング

2020年までを対象とした場合に,中間にいくつか(あるいは毎年)「シメ」を行うかどうか?という視点と言い換えることもできます.経済学的には,長い期間の方が有利ですが,人間の行動学的には短いことにも意味があります.検証の大変さからいって,規制対象をいくつかに分けシメの時期をずらせるという考え方もあるでしょう.期末がいくつもあることで,市場がおかしな振る舞いをすることを防ぐこともできます(米国のRECLAIMと制度で採用されました).

また,ボローイングはモラルハザードにつながる可能性があるので,認めている排出権取引制度はほとんどないでしょうが,cap-and-tradeで長い期間をとる場合,その間は自由にボローイングができるということも意味しています(もちろん合理的に).バンキングをはずすと,期末に排出権価格が高騰もしくは暴落します(上記のような工夫をすればいくぶんかは防げますが).これは,EU ETS第一期やBP社内ETSの初年度が実証しています.

ベンチマーク方式と原単位方式

注意が必要なのは,

の異なった2つのアプローチがあることです(それらの亜流もあります).どちらも取引の単位はCO2換算トンであり,原単位や目標値を取引するわけではありません.

後者は英国が最初に採用しましたが,その複雑さゆえうまく機能しませんでした.Cap-and-tradeはシンプルにしなければ,市場としてのメリットは享受できないわけですね.

一方で,上のケースにも下のケースにも,対象となる数字として,原単位の大きさそのものと,原単位の向上率という二種類の異なった考え方があります.「制度の現実性」からいって,「現状からかけ離れた目標値設定」は(少なくとも最初には)ありえないでしょう.その点から,前者は,政治的にも技術的にも,ムリだと思われます.一方で後者は,省エネ法の考え方にも則っており,どのような業種にも,業種を横断するケースにもある程度対応できるので,現実的な方法のひとつとなりうるでしょう.

オークション方式

無償割当ではなく,必要な分だけ一から買ってくるというオークション方式は,しばしば理論的にもっとも公平であるという誤解があります.これは「公平性」の概念が,Polluter Pays Principleと同値であるという誤解から来るものでしょう.公平性の概念は,人によって異なります(これこそある意味で政治の本質であるわけですね).

もうひとつ重要な点が無視されています.それは「排出権販売収益の使途」すなわち「社会への還流の仕方」です.最初から取引を行うのがオークション方式であるため,それによって経済効率性は確保できるでしょうが,公平性の問題はそこでは扱われず,それが「いわば背後の(しばしば見えないところで)決定される」排出権収入の分配方法に姿を変えているわけです(財務省マターでしょうか?).

それから,公平性の概念には,結果としてどうなったか?という点もそうですが,ステークホルダーがその決定プロセスにきちんと関与して意見を言えるか?というプロセスの公平性という点も重要であることは留意しておくべきでしょう.

国内外での排出削減に貢献する業種・製品についての考え方

日本人は,排出権取引制度を,規制手段という側面よりも,「よいことをした人が報われる(報酬を受け取ることができる)」制度としての側面に親和性があるようです.国内クレジットやJ-VERなどをみてもそのように感じられますね(これらの制度は補助なしで制度的に機能するように改変するか,別のインセンティブ制度を用いるべきでしょうが).

前回のこのコラムでも紹介したように,それは可能であり,日本人の気質にあった世界的にも新しい試みとして意味を持ってくると想定されます(将来の国際フレームワークへのパイロット的なアプローチにもなりうる).

ただ,削減が実際に行われる部門(たとえば家庭部門)のことも考慮する必要があるため,いままでのような産業部門のみを対象としたETS(排出権取引制度)の考え方から,より広い視点と統一されたデザインが必要となります.

いま,どうデザインすればよいか思案中です.どなたかいっしょに考えてみませんか?

ポリシーミックスのあり方

ポリシーミックスは当然必要ですが,そのためには各政策措置の得手不得手をきちんとリストアップしなければなりません.現実にはほとんどそのような議論がなされていません.

たとえば,技術革新や開発は,ETSに期待すべきではありません.ETSは安価な技術の「普及」のためには機能させることができるタイプの政策措置です.既存の,そして将来想定される政策ツールをきちんとテーブルに並べて,その特徴(プラス面/マイナス面)を整理した上で,どのように組み合わせるか?を考えるべきでしょう.

もっとも,その前に,政策目的やビジョン自体の議論がないのも大きな問題ですね... ビジョンは,温暖化対策のそれではなく,日本という社会全体を,この問題を契機にして,どのような社会にしていきたいか?という点にあると言えるでしょう.



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2010年 6月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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