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Last updated: 2010.11.28

地球温暖化問題と流行

最近,国際枠組みや日本,米国の政策面の不透明性などから,一時期に比較して,地球温暖化問題の関心度がだいぶ低下しているような気がします.わたしが危惧するのは,地球温暖化問題は,そのような「流行り廃れ」というものに大きく左右されることがあっては困るということです.

地球大気のCO2濃度は,2010年6月で392.04 ppm,昨年6月の389.43 ppmと比較して,2.61 ppm増えています(NOAA, Mauna Loa, http://co2now.org/).増加傾向はグラフからも明らかなように,産業革命以降,「堅調」なものです.これが化石燃料燃焼によるものであることに疑義を挟む人はいないでしょう.言い換えると,人間が気候系に与えてきた「外力」は,ますます大きくなってきているわけです.

Atmospheric CO2 data and trend

世界の平均気温上昇や,異常気象などは,そう単純ではありませんが,異常気象に対する世界の支払っているコストが長期的に堅調に増加していることは,再保険業界の大きな懸念事項となっています.ついこの間も,モスクワで史上最高の37.2℃を記録したなど,局所的な異常気象も散見されますし,今年の4〜6月の世界の平均気温がまたもや史上最高であったことが伝えられています(NOAA).

地球のシステムは,100年程度のタイムスケールで大きく変化します.そして,一旦変わってしまったなら,それを後戻しすることは,ほとんど不可能です(不可逆的です).これは厳然たる事実ですね.

その一方で,たとえば経済学や政治の世界で「長期」とは,何年程度を指すのでしょうか?せいぜい5年程度でしょうか...経済学が世の中の動きを規定するなら,長くても5年程度の視野しかない,ということのようです.

問題は,この世の中の「近視眼的視野での動き」の中で,いかにして「数十年〜百年スケールの」スコープを保ちつつ着実に地球温暖化問題に取り組んでいけるか?ということですね.流行り廃れで左右されては困るわけです.地球温暖化問題は,化石燃料依存社会だけでなく人間の行動の在り方に数十年から百年単位のスコープを持ち込むべきという点でも,「現代文明のあり方」にチャレンジしているわけです.

地球温暖化問題に,まだ懐疑的な(=現状を変えてもらいたくない?)人もけっこういるようですが,イーストアングリア大学のEメール流出事件は,科学者側の正統性が立証されましたし,IPCCの結論の主要部分の正しさは,いくつかの機関で追証されています(懐疑論者はそれでもそれを認めずアラを見つけようとするでしょうが).

もちろん,IPCCなどの科学的結論が,たとえば百年後に振り返ってみたら,間違っている部分も出てくるでしょう.ただ,現在,もっとも信頼できる科学的知見を評価するために設立された機関の出した結論は,好き嫌いに拘わらず,それを尊重すべきでしょう(IPCCの評価は不確実性の程度を表す指標も入っています).

いずれにせよ,温暖化問題の脅威は,(かなり確度の高いものも多いのですが)数十年単位の「リスクの問題」として考えるべきことであることは,(たとえ懐疑論者にとっても)疑いようはないはずです(懐疑論者はたぶん評価方法の不完全性を主張することで,リスクが小さいと言いたいのでしょうが,それは確度に影響するでしょうが,リスクの大きさを低く主張する理由にはなりませんね).

かなり大きなリスクがあるなかで(どんどん確度が大きくなるなかで),いま,何をすべきか?とくに他の人が動かないかもしれない中で,自分が何をすべきか?を,もういちど,考え直してみたいものです.

もう一度言いますが,地球システムの特徴や慣性の大きさから,なにかあってからの「後戻り=やり直し」は不可能です(これに疑念を挟む余地はありません).自分たちをコントロールして,軟着陸できるかどうか?すなわちそれだけ人間が賢いか?を問われているわけですね.



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2010年 8月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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