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Last updated: 2010.11.28

排出権をつかったBOPビジネス

先日,ニューヨーク国連本部で,ミレニアム開発目標(MDGs)首脳会合が行われ,途上国貧困層の削減に向けて,各国の首脳たちがさまざまな意見やコミットメントを出し合いました.菅首相は,保険分野と教育分野における「支援」にフォーカスしましたが,オバマ大統領は,投資・貿易の障壁撤廃やインフラ整備支援を手掛け,経済成長を通じ,先進国への「依存」を断ち切るような途上国の自立を促進する構想を示したのが対照的でした.

そのような国家レベルの動きのほかに,従来型の政府やNGOによる「支援」とは異なり,貧困層開発目的における新しいチャンネルとして,また新たな大きな市場開拓という側面からも,いままであまりビジネスの対象と考えられてこなかった途上国最貧層(base-of-the-pyramid)を対象としたいわゆる「BOPビジネス」が,持続性/拡大性への期待から,注目されてきています.

日本でも,最近,JICAやMETI/JETROが,BOPビジネスの支援のための仕組みを,相次いで用意してきています.JICAは開発課題の改善に資することが期待できるBOPビジネスを対象としたFS支援,METIはBOPビジネス支援プラットフォーム(仮称)の創設を予定しています.

ここで,BOPビジネスを,「BOP層が便益を受けるような社会開発の側面を持ったビジネス」とすると,CDMは「クリーン開発」のための市場メカニズムですので,BOPビジネスのひとつとして利用可能な気がします.

CDM好
重慶の貧困農村/山村で戸別バイオガスダイジェスターCDMが求められています

ただ,CDMは「マーケット」メカニズムでもあり,排出権取得が主目的であるなら,わざわざ難易度が高く,みずから投資することができない貧困層を対象としたCDMプロジェクトは,なかなか実現化しないのが実態です.残念ながら,公的機関以外が,BOP層を対象とし,「ビジネスとして」CDMプロジェクトを実施している例はほとんどありません.

たとえばミニ水力を多数導入しようとしていてクレジットの社会性をウリにしているあるビジネス主体も,オフグリッド地域までは,手を出そうとしていないなど,なかなか本当の貧困層に届く形のCDMプロジェクトの「ビジネスモデル」がないようです.

バングラバイオガス
バングラデシュでも新方式バイオガスプロジェクトが動こうとしています

BOPビジネスは,通常はBOP層に対して商品を販売するイメージでしょう.味の素は,途上国でむかしからワンコインで買える商品展開をしてきました.

CDMプロジェクトでも同様の(通常のビジネスとしての)側面はもちろんあり,BOP層向けに,たとえば電気やガス/熱のようなユーティリティーサービスの提供や,それを生成する機器の販売といったことがベースとなります.これがプロジェクトの収益となるわけですね(価格を「儲け」が出るレベルに設定するかどうか?は,別の観点になります).

CDMの場合には,加えて,CERの収益も生まれ,これは先進国側から得られることとなります.従来のBOPビジネスとの大きな違いですね.言い換えると,先進国向けにいかにCERを販売するか?という視点も,重要なビジネスの側面になります.単に通常のコンプライアンス市場での販売だけでなく,ゴールドスタンダード化など,ボランタリー市場を指向することが,期待できるわけですね.場合によっては,(CERをリターンとした)投資資金を(プロジェクトの社会性を重視する)先進国企業などから調達することも可能となるかもしれません.

プロジェクトとしての側面から考えると,形態としてはPoA(プログラムCDM)が通常は望ましいでしょう.NGOが小さく行うのでしたら小規模CDMも可でしょうが,ビジネスの仕組みを使って大きく展開するのでしたら,「あとから自由に追加できる」PoAが使いやすいですね.

ただ,なんと言っても一番重要なのは,ホスト国の誰と組むか?という点です.BOPビジネスは,「数で勝負」しなければなりませんので,そのような横展開を行うことができる主体と組む必要性があります.その組織内にトレーニングを制度として保有していたり,メインテナンス体制を確立していなければ,大きな横展開は難しいでしょう.

わたしのもうひとつの会社であるPEARは,まさにこのようなBOP層向けの活動をCDMを通じて実現化することを目的の一つとして設立したものです.

CDMですので,エネルギー系サービス(ガス/熱,電気)を対象としていますが(再生可能エネルギーによる低炭素型エネルギー自立農村という発展形態の提案であるわけです),同時に農村固有の他の社会的問題の同時解決を狙っています.また,単純なCDM化や政府補助金プログラムだけでは導入できない最貧困層にも,サービスが提供できるような「工夫」も,そのビジネスモデルの中に組み込んでいます.

ようやく今年になって,中国(重慶の貧困農村/山村,四川省パンダの里の少数民族彝族山村)とバングラデシュ(グラミン銀行グループのグラミン・シャクティーと協同)で,PoAやSSC CDMが形になろうとしてきています.あとは先進国での「社会開発側面の付加価値」の広報活動です.ぜひ,日本の企業や市民の方々に,環境だけでなく途上国貧困地域の社会開発という二つの側面を持った価値を,評価していただきたく願っています.

もちろん,欧米でもPRしていきますが,日本ではダメで欧米でのみ評価される...という悲しい状況にはなって欲しくないものですね.ご興味のある方は,n_matsuo@pear-carbon-offset.org までご連絡ください.社会性と環境性の両方で,ピカピカに輝くすばらしいプロジェクトをご紹介いたします.まだ世界でもほとんど例を見ない取り組みですので,ご一緒にいかがでしょう?

イ族の子供
四川省彝族(イ族)の山村の子供たちです.彼らの笑顔を共有しませんか?



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2010年 10月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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