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Last updated: 2003.11.16  

「第一回 CDM 学習合宿」参加体験記

2003 年 10 月
國田 薫


これは 2003 年 8 月末,葉山にある財団法人地球環境戦略研究機関 (IGES) の施設をお借りし, 気候変動問題のスペシャリストである松尾直樹氏に講師を依頼して開催した「第一回 CDM 学習合宿」の参加体験記です.


合宿開催のきっかけ

「環境」について学びたいと考えている人は多いのではないでしょうか. 地球温暖化,大気汚染,絶滅の危機に瀕する動植物.私達が社会・経済活動を行う中で, 環境問題は切り離せない課題であり,その解決策は一様ではなく,学生であっても,企業に勤めていても, 多くの情報のキーワードとして「環境」というものがあり,その結果,「環境」について学びたいという人が増え, 「環境」を取り上げた学際的な研究ができる大学や大学院の設立が増えているのも, 伸び行く需要に応えるためのものだとすれば,問題が解決ではなく拡大しているといっても過言ではないでしょう.

環境問題の中でも地球温暖化問題は,日本に限らず世界全体で取り組まなければならない国際的な問題であり, 1997 年に京都で開催された COP 3 で定められた京都議定書の中には先進国に対する数値目標と, 目標達成のための柔軟性措置が含まれています.京都議定書は,世界各国が協調して温暖化問題に対する 取り組みをしようと志した最初の一歩であり,その概念や柔軟性措置と呼ばれる排出量取引,共同実施 (JI), クリーン開発メカニズム (CDM) などを学ぶことで,「環境」の中の温暖化問題という分野に関しては 様々な角度から知ることが可能になると思います.中でも,CDM は,先進国と途上国の両者が協力して行う事業である点や, 将来の排出源となる途上国で今から温暖化対策を実施する点,削減コストが高くなってしまった先進国の技術を 途上国で活かして温暖化対策を進められる点など,温暖化問題に取り組む方法としては画期的な側面を持っています. また,温暖化に限らず,先進国と途上国の間にある経済,教育,ライフスタイルなどの「ギャップ」の問題を考え, 公平性について考えるきっかけにもなり得ます.

このような CDM を一つの軸として研究することで,温暖化の抱える深い問題点について検討することが可能になり, かつ,理系と文系の知識を融合した「合作」としての研究結果として PDD を設計することができます. しかし,CDM や PDD に関する情報は,毎月のように新しい決定が UNFCCC の HP に掲載されるように, 常に変化しているため,交渉の場を知っている方に習った方が適している分野です. このような思いから大学内部にこだわらず,CDM に関する知識を学べる勉強会を実施したいと考えていたところ, 実際に PDD 作成経験もある松尾直樹氏と知り合う縁があり,合宿の講師を引き受けていただくことになりました. 8 月末の週末に,大学院の学生を中心に 8 名の参加者が集まり,二日間の勉強合宿が開催されました.


第 1 日目

今回,私達は財団法人地球環境戦略研究機関 (IGES) の研修施設をお借りして二日間の勉強合宿を実施しました. 参加者が顔を合わせるのは当日が初めてということもあり,一日目は各自が自分の研究についてプレゼンテーションを行い, 全員から質疑を受けるという方式で進めることにしました.

CDM 合宿というだけあって,CDM についての研究を行っている人間が参加したわけですが, 「製パン工場から発生する有機性廃棄物のメタン発酵による再生エネルギー利用の研究」, 「途上国の廃棄物管理におけるクリーン開発メカニズム (CDM) プロジェクトの可能性」, 「持続的な森林資源マネジメントのための炭素・環境・資源統合評価の研究」といった具体的な案件についての 検討結果を報告する人もいれば,CDM の副次的影響に関する研究など,概念的な研究をしている人もいて, バランスのとれたディスカッションが行えました.

全体的な流れとして,私達学生が持つ CDM に関する関心は,研究対象としてであり,「CDM は有意義か」や 「なぜ CDM に取り組むのか」といった議論が集中的に交わされる傾向が見られました. 共通認識として,CDM が「持続可能な発展」のための条件の一つであり,また,途上国の持続可能な発展に貢献し, 気候変動枠組条約の究極の目標(大気中のGHG 濃度の安定化)の達成を支援し, 結果的に先進国の京都議定書目標達成を支援することに繋がるのではないか,という考えがあります. つまり,CDM が目的を達成できれば,持続可能な発展の実現に大きく貢献できるものの, CDM を「適切に」機能させるには,多くの課題があるので,そうした課題の解決に取り組むことを研究目的にしている人が 多いようです.

現実では CDM は京都議定書における有効な柔軟性措置として認められており, その導入・実施を批判しても変化がおきるわけではありません.また,実際に途上国側ではどのように CDM を 捉えているのか,という声を聞いたことがある学生は少なかったため,国際協力機関勤務の T さんより, 日本の CDM 現場の実情について詳しく教えていただきました.

そして夜,松尾さんには時間制限をせず質問に答えていただく時間を設けました.全員が普段から疑問に 思っていることを次々と質問し,その内容は,「ひとつのプロジェクトにつき, 必ずひとつのプロジェクトバウンダリーが定まるのか?」,「CDM プロジェクトの中で,環境影響が大きく, 環境影響評価の対象になるようなものには,どのようなものがあるのか?」, 「ベースライン方法論というのは,具体的にどういったものなのか?」などといった専門的なものから, 「ロシアは本当に批准するのか?」や「指定運営組織はいつ頃正式に認定されるのか?」といった質問まで様々で, 一つひとつ丁寧に松尾氏に答えていただきました.


第 2 日目

就寝時間が遅かった人がいたにもかかわらず,翌朝は 10 時きっかりから勉強再開です. 午前中までしか参加できなかった人もいたため,最初に松尾さんから「CDM の新方法論およびベースラインについて」 という題名で PDD 作成のプロセスの 理論的背景と実務的な点について説明していただきました. そこで CDM に欠かすことのできない方法論に関する理解が不足していることはもちろんのこと, そもそも適切な PDD を書くスキルが不足していること,また CDM そのものに対する理解が不足していることなどが 課題として挙げられました.

CDM を実施するにはいくつかの手続きを経なければなりません.PDD の作成はその第一段階であり, それを審査し,事業を実施し,削減量を計算して排出削減クレジット (CER) を得るのは後から付随してくるものです. 有効な PDD を作成するには その CDM プロジェクトに対する情報や知識を把握しておくのはもちろんのこと, 他の CDM プロジェクトにも普遍的に活用できるような形式で作成されなければならず, CDM の本質に関する知識と視点が必要です.

松尾氏は具体的な例を挙げながら,PDD が作成されるまでの課程を説明してくださいました. 現在幾つもの PDD が作成され,申請されているにもかかわらず,UNFCCC に認定されている方法論が少ない理由として, 「ベースライン」,「追加性」,「方法論」などについての解説がありました.

PDD 作成者が留意すべき点として,まず,「ベースラインシナリオ」ではプロジェクトのカテゴリー分けを行い, カテゴリーごとのベースラインを表す数式を提示しなければならない,という指摘がありました. また,「追加性」では CDM にしなければそのプロジェクトと同じものは実施されなかったという点から出発し, 経済性,地元の規制,障害となる条件,普及率などを検討します.そして 「方法論」では,プロジェクトのタイプを示し,そのタイプのプロジェクトを行うときに, どのようにGHG 削減量を計算すればいいのかを検討します.つまり,方法論とは,どのようなプロジェトであるのか (どんな地域でどんな技術をどのように導入するのかなどプロジェクトの概要)ということと, そのときの GHG 削減量をどのように計算するのか(計算式)という二つのパートからなると考えられます.

午後からは,午前中の講義を踏まえ,HFC 23 破壊プロジェクトの PDD を作成するという具体的な課題が与えられました. 実際の PDD を読んだたことはあっても,自分達が作成するということは経験がなかったものの, 先ほど習った「ベースラインシナリオ」,「追加性」,「方法論」などに分けてケーススタディを行いました.

結果的に,基本に関する理解が深まったため,具体的な数値は述べられなかったものの, 大まかな PDD のアウトラインを作成することはできました.しかし,実際に答え合わせをしていただくと, 私達の PDD では抜けていた点が多かったことが判明しました.通常の PDD として問題はなくても, 模範解答のように,さらに一歩進んだ視点から見るということができておらず, 「一般化」や事業実施者の「未必の故意を防止」する方法を盛り込むという点までは考えが回っていませんでした.


感想

Gasshuku

二日間の合宿を終え,「まだまだ知識が足りない」とういことを心底感じました. オランダの CERUPT や世界銀行の PCF など,CDM 関連事業は止まることなく進んでいますが, 日本の現状を見てみると,政府ではフィージビリティ調査を中心とした「検討」が進められているものの, 実際の事業案件は少なく,CDM を研究している大学院も多くはありません.ただ,OE としての申請件数は多く, 事業実施を決定している企業は少なくても,それを支援する基盤は自主的に育ちつつあるのかもしれません.

今後,日本の温暖化対策を進めるに当たって,CDM や JI など,京都メカニズムを活用することは 不可欠な要素となるでしょう.従って CDM について十分な知識と,PDD を作成できるだけの能力を持った人材が 必要になってきます.松尾さんは「CDM は文理両方の知識を融合させて作るもの」とおっしゃっていましたが, まさしくその通りだと思いました.プロジェクト設計書(ノーマルと小規模の両方ともについて)の項目は, 今後も改訂を重ねていくということですが,どのような項目が設定されようとも対応できるようにするためには, 根本的な知識が不可欠だと思います.

PDD を作成するということに限らず,CDM 事業を開始するということは「大変だ」というイメージが 企業にはあるかもしれません.CDM を疑問視する声は産業界にも NGO にも多く,批判する団体が多いのも事実です. しかし,国際的な合意である京都議定書の基に定められた柔軟性措置であり,かつ今回の合宿でも議論されたように 副次的効果を配慮した上で活用すれば途上国にとっても望ましい結果が得られるのであるならば, 正しい知識を見につけ「良い」 CDM を増やしていくことが重要なのではないでしょうか.

今後,自分がどのように CDM や温暖化対策と関わっていくかは分かりませんが, 常に変わりつつある状況に対応できるように,研究を続けていかなければならないと感じました.

最後になりましたが,二日間に渡って付き合ってくださいました松尾さん,合宿に参加してくれた皆様, そして合宿場所を提供してくださった IGES のスタッフの方々に篤く御礼申し上げます.

どうもありがとうございました.



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